冒頭の質問、一般論としては「日本は世界有数の高齢化社会だから、いいことだと思う。」でしょうか。でも、自分自身のこととして考えてみると、同じ答えにはならないかもしれません。
日本では「高齢者の医療の確保に関する法律」で、65歳以上の方を高齢者と定義していますが、実は最近、「高齢者の対象となる年齢を引き上げるべき」という声が、いろいろな方面から挙がっています。
本年5月には、政府の重点課題を示す「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を議論する経済財政諮問会議で、70歳以上とすることを検討すべきという提案がありました。また、日本老年学会が6月に公表した報告書や、経済同友会が7月に開催したセミナーでは、75歳以上とする提言がなされています。
いずれも、健康寿命の延伸による元気なシニアの増加が背景にあります。「元気なのだから、もっと働いてください」ということでしょうか。
実は、高年齢者が70歳まで働くための環境を整えようと、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」の一部が改正され、「70歳就業確保法」として2021年4月から施行されました。
高年齢者が働く意欲を発揮できる環境の整備が目的で、70歳までの定年引上げ、定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入などの雇用による措置や、業務委託を締結する制度の導入など雇用以外の措置を講じるよう、企業の努力義務が設けられました。
厚労省によれば、2023年6月1日現在で実施済の企業は29.7%(前年+1.8%)、うち中小企業30.3%(+1.8%)、大企業22.8%(+2.4%)と、徐々に対応が進んでいるようです。
では、実際に組織で働いている方は、「70歳定年」をどう考えているのでしょうか。
2019年発表のデータにはなりますが、一般社団法人定年後研究所が行った「『70歳定年』に関する調査」*の結果をご紹介します。
〇70歳定年を歓迎するか?
→ 歓迎する:42.6%、戸惑い・困惑を感じる:38.2%、歓迎できない:19.2%
・70歳定年を歓迎する「歓迎派」を、それ以外の「アンチ歓迎派」(計57.4%)が上回りました。
・主な理由は、歓迎派では「収入が得られる期間が延びる」「社会とのつながり」「年齢にかかわらず活躍できる社会になる気がする」、アンチ歓迎派では「長く仕事をしなければならない」「好きな仕事ができるわけではない」「60(65)歳以降は働きたくない」となっています。
〇70歳定年制が導入されたらどうするか?
→ 今の会社で続ける:45.7%、違う会社で働く:17.8%、起業などで組織に頼らない:7.6%、働かない:28.9%
・歓迎派は69.5%が今の会社を選択しています。
〇70歳まで今の会社で働く際の不安はあるか?
→ ある:96.1%、ない:3.9%
・体力、パフォーマンス、意欲の低下が不安の上位となったほか、若手や中堅社員との人間関係による職場での居心地の悪さと、いう声も一定数存在します。
〇70歳まで今の会社で働くために求める支援策は?
→ 処遇改善:52.9%、勤務条件の軽減:51.2%、高年齢社員に相応なポストや業務の開発:45.9%
・社外向けの能力やキャリア開発は13.4%、起業支援は5%と、リスキリング系の意見は少数でした。
調査結果からは、「そんなに長く働きたくない。でも定年が延びるなら、処遇や条件に期待できないけれど、今の会社でやむを得ず働き続ける。」という姿が浮かび上がってきます。
前述のように、企業は70歳まで働ける環境整備を継続していくものの、若手社員とのバランスもあり、高年齢者が十分に満足できる環境を提供できる企業は、現実に多くないような気がします。
平均寿命が延びて老後が長くなる、年金財政は悪化の一途、という点も考慮すると、働き続けた方がいいのは間違いないでしょう。その一方で、今の企業でずっと働き続けることにこだわらず、目先を変え、例えば好きなことや得意なことを仕事にして働くということも、選択肢の一つかもしれません。
*:定年制度のある組織に在籍する40~64歳の男女516人が対象
セカンドライフに関する相談は
横浜市青葉区(あざみ野、たまプラーザ)の独立系ファイナンシャルプランナー
ライフ&マネーソムリエ Office-Tak
代表 尾﨑琢磨
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