成年後見制度や家族信託の利用状況を調べてみました

このところ、何となく感じるのですが、私の周囲から「高齢になった親」の話題がよく聞こえてくるようになりました。

「転んで骨折して入院した」とか、「少し記憶が曖昧になってきた」とか、ケースはいろいろですが、次にみなさん必ず「親のお金や資産の管理を、そろそろきちんとしていかないといけないのかな」と、異口同音におっしゃいます。

 

高齢者の判断能力が低下した場合、家族であっても、本人に代わって契約行為を行うことは、原則としてできません。このような場合に取るべき方法はいくつかあるのですが、最近は家族信託の注目が高いようで、ファイナンシャルプランナーの私にもよく質問が寄せられます。

最近の高齢者の動向や、いろいろな資産管理方法の利用状況について、あらためて調べてみました。

 

厚生労働省が5月に発表した認知症の高齢者に関する調査によると、2022年における認知症の高齢者数は443万人で高齢者の12.3%、つまり約8.1人に1人が認知症ということでした。これが2040年には、584万人(+141万人)で高齢者の14.9%(+2.6%)、つまり約6.7人に1人となり、人数・割合ともに増加する見込です。

これに認知症予備軍である軽度認知障害の高齢者も含めると、2022年は1,001万人で高齢者の27.8%と、既に4人に1人以上が認知症の傾向にあり、これが2040年には1,197万人で高齢者の30.5%、3人に1人近くまで増加する見込です。

もはや、誰もが認知症になり得るとの認識をもつ必要があり、冒頭で紹介したケースは、決して他人ごとではありません。

 

これを踏まえて、資産管理の方法と利用状況を見ていきましょう。まず、司法の枠組みによる成年後見制度です。

令和6年厚生労働白書によれば、2023年末における成年後見制度の利用者数は249,484*で、直近5年間でみると利用者数自体は毎年増加しているものの、増加率は毎年23%ペースと微増で、また、前述の認知症高齢者数の増加と比べると、利用が増えているとは言えません。

成年後見制度は、本人の判断能力レベルや、後見人を選任するタイミングなどに応じて、成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人の4種類の中から選択します。資産管理の過程で家庭裁判所が一定の関与を行うため、制度としては厳格な反面、一度利用してしまうと本人の判断能力が回復しない限りやめられない、日常の買い物なども管理の対象に含まれるなど、硬直的な運用がネックとなっています。これを受け、20242月に、法務大臣が制度の見直しを法制審議会に諮問しており、今後の改善動向が注目されます。

 

次に、冒頭に紹介した家族信託の利用状況です。

家族信託は私契約で、実績の集計機関が現状存在せず、利用件数を正確に把握することができません。参考値として、法務省の登記統計から、不動産を信託する際に行う不動産信託登記の実績を紹介します(信託登記は家族信託以外でも発生すること、不動産以外の財産を管理財産とする家族信託もあることから、家族信託の件数とは一致しません)。

これによると、2023年の不動産信託登記件数は20,321件で、5年前(2018年)の8,194件から約2.5倍に増加しています。

家族信託は、信頼できる家族に高齢者が財産管理を託す信託契約の一つで、成年後見制度より自由度が高いほか、相続対策としても活用できるなどの理由で、利用が増加している模様です。ただし、多くの法律や税務が関係するため、様々な専門家の関与が必要になるなど、組成に向けた作業が煩雑で、結果として相応の費用も発生するなどの点は注意が必要です。

 

このように、それぞれの制度には一長一短があるため、高齢者の判断能力がどのような状況か、管理すべき資産は何かなど、ケースバイケースで対応を検討していくことが必要です。次回のブログでは、個々の制度について、具体的に見ていきたいと思います。

 

*:成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人の合計

 

 

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